新型コロナウィルスの影響を受け、ベトナムにおいてもデジタルサービスが大流行しつつあります。コンシューマ領域ではライドシェア、フードデリバリー、Eコマースが確固たる地位を確立していますが、企業におけるITサービス領域にも急激な変化が訪れています。
これまでベトナム国内におけるITサービス利用と言えば、
- Excelとファイルサーバとメールで運用
- 買い切り型の業務パッケージをいつまでも使用
というのが一般的でしたが、日系・外資系・ベトナムローカルのシステム開発会社は次々とサブスクリプション型のクラウドサービスを開発しています。日本同様、先行き不透明な今の時代においては5年先を見据えた高額なシステム導入をするのは難しく、手軽に導入できるクラウドサービスは一気に広まると思われます。
それと同時に、システム開発会社ではなく、事業会社がクラウドサービス開発&販売にビジネスモデルチェンジするDX(デジタルトランスフォーメーションの略)事例も出てきています。今回はいち早くDXに踏み切ったパソナグループから先日リリースされたサービスを事例としてご紹介したいと思います。
目次
パソナグループとのおつきあい
(左:パソナテックベトナム古谷社長、右:デジタルマーケアドバイザー田中さん)
ご存知の方は多いかと思いますが、筆者は独立起業前に人材サービス企業に所属していたこともあり、ベトナムの人材サービス企業とは仲良くさせていただいていました。といっても、私はベトナム現地での人材サービス事業を担当していたわけではなく、日本国内向けのソフトウェア開発事業をしていたのでビジネス上の競合ではありませんでした。
その中でもパソナグループとは前々職の先輩が役員をされている関係もあり、ベトナム現地法人である「パソナテックベトナム」にてリーダ育成支援のお手伝いさせていただいたり、パーティにお誘いいただくなど、深くお付き合いさせていただいていました。
そして、2020年初頭、ベトナムでも新型コロナウィルスが発生し、パソナテックベトナムにおいても会社に出社できない、顧客先に伺うことができない、という事態が発生していました。
新型コロナウィルスがDXのきっかけに
新型コロナウィルスにより、ホーチミン市でもレストラン等の営業制限がされていた頃、パソナテックベトナム古谷社長と情報交換をしていました。その中で、世界の様々なサブスクリプション事例(例:GEが飛行機エンジンの利用時間で課金、カミソリの定期購読など)で盛り上がり、今後ベトナムでも多くのビジネスモデルが、サブスクリプション型に切り替わっていくだろうと議論していました。
一方、人材サービス業界においては、日本においても人材紹介を活用している企業は全体の数%しかないという状況も教えていただき、この業界においてもDXは不可避であるのは間違いないという結論に至り、ここから古谷社長主導でDXの検討が始まりました。
ベトナムでは1日平均のスマートフォン利用時間は4時間というデータもあり(出所:ベトナム市場調査のQ&Me)スマートフォンに流れてくる情報が企業と求職者をマッチングする大きな要素になると考え、企業が人材サービスを介さずに、効率的に求職者のスマートフォンに対して魅力的な求人情報を発信する仕組みをサブスクリプション型で提供するとう方針でプロジェクトが進んでいきました。
DXのむずかしさ
なんといってもDXの難しさは、企業の販売する商材が180度変わり、営業が難しいところにあります。
日本における人材紹介というサービスは古くは江戸時代から行われていたそうです。現代においても「人材紹介です」というだけで、ほとんどの企業の人事の方はどんなサービスか想像つくはずです。人材サービス各社は、手数料率や、得意職種領域が異なることを除いては、ほとんど同じサービスを提供しています。
一方、新規開発したクラウドサービスを商材とする場合、お客様にはゼロからサービスをご紹介しなければなりません。クラウドサービスの紹介は非常に難しく、例えば世界で最も有名なクラウドサービスである、Sales Force.com(SaaSと呼ばれるクラウド上のソアプリケーション) や Amazon Web Service(PaaSと呼ばれる、クラウド上のサーバー)であってもサービスを正確にわかりやすく説明できる営業担当は非常に少ないです。Sales Force.com や Amazon Web Serviceに存在する数少ない精鋭の法人営業部隊は、外資コンサルや大手SI出身者が中心で、年収1500万円は下らない営業のプロフェッショナルで固めています。
それに加え、デジタルマーケティングという新しい領域のノウハウも必要となります。これまでデジタルマーケティングに触れたことのない方にとっては、SEO対策、WEB広告出稿など、WEBサイト管理をしている一部の人たちが扱うものだと思いがちですが、今後は全てのビジネスマンにとって身近なものになっていきます。
簡単な例で言いますと、私の叔母が手工芸の髪飾りを作っていたとします。地方の小さなショップで近所の方々に販売しています。それを見た私が、携帯電話で製造動画を撮って、編集してインスタグラムに投稿します。これこそがデジタルマーケティング入り口なのです。もちろん、この後効果を最大化するために、動画に字幕をつけたり、購入しやすいサイトを作ったり、サイトに広告をかけたりするのですが、そういった実装は営業ではなく、プロに任せれば良いのです。
ちなみに、そのプロマーケターを育成するスクールを元Yahooジャパンで、友人の福田さんが立ち上げたので、興味のある方はこちらもご覧ください
人材採用支援クラウドサービス概要
最後に、サービスについてご紹介させていただきます。※詳しくはパソナグループのサービスサイトをご覧ください。
1. 求人ページ自動生成
自社コーポレートサイトに、管理画面から入力した求人案件が掲載される仕組みです。求人掲載CMS(コンテンツ管理機能)が搭載されたコーポレートサイトであれば不要ですが、私の経験上、在ベトナム企業で求人掲載CMSが搭載されたコーポレートサイトをみたことがありません。コーポレートサイトのアークテクチャを変更せずに、求人掲載をすることができます。
2. 求人投稿・SNS連携
管理画面から求人案件を掲載すると、自動で複数のFacebookページやLinkedInにポストされます。FacebokページやLinkedInには手動でも投稿できますが、意外と面倒なので便利な機能だと思います。
3. 採用プロセス管理
自社コーポレートサイトから応募のあった求職者との連絡、面接、オファー等のプロセスを一元管理できます。この機能はATS(Applicant Tracking System)と呼ばれ、人材採用システムとしては正直目新しいものではないのですが、必須機能です。
4. チャット・オンライン面接
当機能を利用することにより、外部のチャット・ビデオ通話機能へログインすることなく、人材採用担当者と求職者がブラウザ上で繋がります。
ちなみに、クラウドサービス全盛の2020年は、オンラインコミュニケーションツールが溢れていますが、どれも10年前には存在しなかったツールばかりです。今更チャットツールかと思われますが、今後新たな感染症が出てきたり、またはリモートワークが当たり前になった時、チャットツールすら持っていないクラウドサービス業者が生き残っていくとは思えません。
さいごに
筆者は2020年代のDXに非常に注目していて、以前も当ブログでDXについて考察をさせていただいたのですが、今回身近なところでDXの事例をみさせていただいたのでご紹介させていただきました。今後もベトナムのDXについては特に注目していきたいと思います。