ベトナム赴任、もしくは定期的な出張が決まると、みなさん必ず考えるテーマがあります。それは、ベトナム語を学習するべきか否かです。ちなみに、ベトナムは他国に比べて日本語を話せる現地人材が豊富で、さらに月給は3万円〜8万円なので、通訳兼秘書として採用すれば全くベトナム語を話せなくてもビジネスを立ち上げる事ができます。さらに言えば日系企業のサポートを活用すれば日本人とやりとりするだけで良いので、もはや日本でビジネスをするのとなんら変わりはないのです。それでも結論として、ベトナム語を学習するべきだと考えています。その理由と学習方法について考えてみたいと思います。
目次
ベトナム語を一切勉強せずに赴任開始
(初めて来て驚く大渋滞)
私は2011年に赴任する際、一切ベトナム語の勉強をしておらず、現地到着後は前任者の日本人や、出向先の日本人と日本語でやりとりをしていました。当時ベトナム人エンジニアと一緒に日本向けのソフトウェア開発をしていましたが、開発チーム20名のほぼ全てが日本語を話す事ができたので、ほとんど日本語でコミュニケーションを取っていました。これは当時開発チームを提供してくれていた、別の章でも登場するインディビジュアルシステムズの浅井社長の長年の努力の賜物でもあります。浅井社長は2000年頃からベトナム人エンジニア向けの日本語クラスを運営されており、それによって日本語を学び、そして日本へ研修や就業に行くことになったエンジニアを多く排出されています。
このようにビジネスを行う上で全くベトナム語を使わなくても良い業種も存在します。しかしながら私は赴任2ヶ月目ぐらいから違和感も持っていました。せっかく海外に住んで働けるチャンスを得たのに、日本語を使い続けるのはあまりにイケてないのではと。もちろん、3ヶ月や半年の期間限定で事業を立ち上げたり、立て直したりする人にとっては業務に集中することが最優先ですが、私の場合は長期で何か成し遂げたいと思っていたので、ベトナム語を学習することにしました。
いつの時代も変わらない、ベトナム語学習方法4選
(サイゴンランゲージスクールの様子)
そして、どのようにベトナム語を勉強する事ができるのかを調べました。これは2011年も2020年もほとんど状況は変わっていません。
① 外国人向けベトナム語学校
週1回から。費用は1万円〜2万円/月。マンツーマンとグループが選べ、日本での英会話教室に似たような雰囲気。
ホーチミンの老舗サイゴンランゲージスクール(https://www.saigonlanguage.com/)
② 現地大学内のベトナム語教室
ホーチミン市人文社会科学大学。月〜金の毎日午前か午後に通うスタイル。約3万円。商社のベトナム赴任予定者が送りこまれてベトナム語を習得する際などに利用されている。大学内で学べるため、ベトナム大学生気分を満喫。
③ ベトナム語家庭教師
既に現地で業務の始まっている人が主に利用。資格を持った講師ではなく、上記の人文社会科大学で日本語を勉強した人が副業として家庭教師をしているケースが多い。以前はカフェや自宅で教えてもらうことが多かったが、今はオンラインでも十分に勉強できる。
④ ベトナム人と日本人の語学交流会
本格的に勉強するほどではないが、少しはベトナム語を話したい。また、ベトナム人の友達を作りたいと言う人が主に参加。同じく上記の人文社会科大学のクラブ活動である東日クラブ(https://www.facebook.com/pg/tonichiclub/about/)
番外編 – よくある失敗例
参考までによくある失敗例として、ベトナム人の友人、恋人、同僚等に教えてもらうという方法がありますが、言語を体系的に教えるというのは実は難しく、「この時はどう言うの?」というQ&Aベース且つカタカナでの記憶では、数回目からは伸びがなくなり、挫折してしまいます。ただ、友人とはいえ教える能力のある人にはしっかり授業料を払うことで、家庭教師以上の学習効果となる事もあります。
ベトナム語を学ぶ目的
(ベトナム人と一緒に飲み会)
私は家庭教師に教えていただくことにしました。ちょうど前任者が教わっていた家庭教師の方を紹介してもらったので、業務後に週3回、1回1時間150,000ドン(当時レートで600円)でお願いしました。先生から開始前に「何を目的として勉強しますか」と聞かれたので「ベトナム人と飲みに行って、直接会話をして笑いあえるようになりたい」と答えました。今考えるとまさにその要望通りに教えてもらいました。会話の基本文型は英語に似ていて、人称代名詞(私)+動詞(行く)+目的語(会社)ですが、ベトナム語においては動詞の変化は無く(過去形や未来形は別の単語をが前に付きます)、人称代名詞のみ相手との関係によって変化します。これを理解することが最初の講義でした。日本語にも同じ表現がありますが、相手が目上の場合と目下の場合では自分を表現する人称代名詞が変わります。自分が目下であれば、自分が”Tôi(私)”、”Em(僕)”、相手が”Anh(お兄さん)”、”Chị(お姉さん)”、”Ông(おじさん)”、”Bạ(おばさん)”となります。自分が目上であれば逆になります。その際の注意点として、相手を”Tôi(私)と呼ぶことはありません。
ベトナム人は相手が年上か年下かをすごく気にしますので、年齢を聞くことをあまり躊躇しません。もちろんビジネスシーンで直接聞くのは失礼なので、年が近そうで且つ不明な時はお互い自分を”Tôi(私)”と言い、相手を”Anh(お兄さん)”、”Chị(お姉さん)”と言います。外国人にとってベトナム語の敬語表現は難しいため、相手への敬意を人称代名詞によって表現することがビジネスでは非常に重要となります。例えばベトナム人ビジネスパートナー候補と最初の打ち合わせをして、英語で話したり、通訳を介して話をしていても、別れ際にはベトナム語で、”Xin chào anh, hẹn gặp lại(直訳:お兄さんこんちにちは、また会いましょう。意訳:本日はありがとうございました。こちらで失礼いたします。)”と一言付け加えるだけで印象は全く変わります。
抑えておきたい、ベトナム語3つのルール
(ベトナム語のアルファベット)
人称代名詞のルールを覚えたら、次は動詞と目的語を多少記憶するだけでそこそこ会話できてしまいます。”Đi(行く)”、”Ăn(食べる)”、”Làm(する)”、”Xem(見る)”など、必須単語を覚えていきます。ここで日本人にとって「なんだこれは」となるのはアルファベットの上下に付いている記号です。これについて当のベトナム人からも明確に説明される事は稀なので、特別にここでご紹介したいと思います。今後ベトナム語を勉強する予定が無くても1つのTipsとして認識しておくだけでベトナム有識者と言い切ることができますので、おすすめです。
ルール1 – 追加アルファベット
ベトナム語ではA U E O D のアルファベットの派生で、Ă Â Ư Ê Ô Ơ Đ の7つの追加アルファベットがあります。読み方は同じですが、異なる文字となります。また、J F Z W の4つのアルファベットは使いません。理由まではわかりませんが、そういうものだと思って覚えるしかありません。
ルール2 – 声調記号
ベトナム語には6つの声調があり、全ての母音にはA À Á Ả Ạ Ã の6つの声調記号が付きます。ここでのポイントは声調記号が異なると、違う単語になってしまうと言う事です。
ルール3 – 組み合わせ
追加アルファベットと声調記号が重なる事もあります。つまり、A À Á Ả Ạ Ã Â Ầ Ấ Ẩ Ậ Ẫ Ă Ằ Ắ Ẳ Ặ Ẵ 18パターンのAが存在します。ここだけ見るととんでもなく気が遠くなりますが、実際ほぼ使われないパターンもあります。基本的には単語単位で覚えるので私は右脳で絵のようにして単語の形を記憶しています。大と犬の違いのようななものだと捉えるとわかりやすいかもしれません。
ベトナム人の子供はベトナム語の単語をノートに書きまくって覚えます。これは日本語の漢字の覚え方と同じです。ただ日本語と異なるのは漢字のように部首などで構造化されていないため、完全に記憶するしかありません。ベトナム人学生のノートは四隅までビッチリと埋め尽くされている事で有名です。(通称:ベトナムノート)これにはベトナム語の学習方法が影響しているのではないかと私は考えています。外国人がやりがちですが、声調を無視して通常のアルファベットのみで無理やり通す方法があります。簡単なコミュニケーションであれば普通に通じてしまいます。実際、ベトナム人でもラフなチャットのやりとりでは省略されている事も多いです。しかしながら、これは日本語を全てアルファベットで表現しようとしている外国人と同じで(例:Watashi ha americajin desu)、その後の上達の障壁となってしまいます。もしベトナム語を勉強される事があれば、そんなに難しい事では無いので基礎をしっかりと身につけてから始めることをお勧めします。
言語を学ぶ喜びと海外ビジネス成功の鍵
(オンラインベトナム語教室)
私は40歳になりましたが、今でも新しい言語を学んでいるということに喜びを感じています。日本語を話せると1億3000万人、英語を話せると21億人以上、ベトナム語を話せると1億人、話をできる人が増えていきます。この次はスペイン語と韓国語とタイ語も覚えたいと思っています。語学はこの先長く勉強するモチベーションのある科目です。冒頭では短期の業務ミッションであれば通訳を活用し、勉強をしないという選択肢もありだと述べましたが、せっかくの人生なので勉強をされることを強くお勧めします。ベトナムおよび海外ビジネスを成功させる鍵の1つは間違いなく言語とコミュニケーションにありますので。