これまでの記事でも何度かご紹介しているように、ベトナムビジネスの原則は投資を最小化し、最速で売上および単月黒字を達成することです。そして、利益を再投資して事業拡大するというのが、定石ではないでしょうか。しかしながらどこかの段階で資金調達をして、事業を急成長させなければならないタイミングも来ます。もしくは社会状況の急変により一気に売上を失うかもしれません。どれだけ将来性が高くても、現金がなくなれば終わりです。その際に、ベトナムでどのように資金調達をするのかを実例を交えて紹介していきたいと思います。
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ベトナム銀行融資
ベトコンバンクやBIDV銀行などの国営商業銀行における短期借入金利は7%から9%、中長期借入金利は9%から11%となり、日本のノンバンクが提供する中小企業向け事業融資に近い高金利となっています。さらに不動産担保が必要となるため、これでは普通の日系企業では短期の資金繰りであっても借りることができません。そもそもベトナムの預金金利は1年定期で8%は付くため、調達コストを考えるとこの程度の貸出金利にせざる終えません。ベトナムの銀行とはお金を借りる関係ではなく、お金を貸す関係にならないとダメです。
日本本社からの親子ローン
多くの日系企業が利用している方法がこちらになります。ベトナムに会社を設立する際、日本本社から1%でも資本金を入れることでベトナムでは子会社と認識されます。すると日本本社からベトナム子会社に対して、短期または中長期での貸付が可能となります。金利も設定できますので、本社からすると金利収入という形でベトナムの事業リターンを得ることができます。ちなみに、金利に対してもベトナム側で税金(外国契約者税)がかかるのでご注意ください。金銭消費貸借契約書は英語で作成可能で、ベトナムにある日系メガバンク支店を通して手続き可能です。ただし、送金や返金の事前承認を国家銀行から得るために1ヶ月程度要することもあるため、資金繰りの為の融資の際には早めに準備をしておく必要があります。
日本政府系金融機関の活用
2020年時点での日本政策金融公庫の事業融資金利は1〜4%と超低金利となっていますが、日本に親会社を持っている企業の場合、日本の親会社で借りてベトナム子会社に貸し付ける(もしくは支払い)ことが可能です。事業計画次第ではありますが、日本本社も含めた売上拡大の為の施策であれば、資金用途としてベトナムでの利用が認められます。これを知ってハッと思った人はいませんでしょうか。1%の借入金利で借りて、8%の預金金利で預けることも理論上可能なのです。ただし、ベトナムの経済成長率を考慮すると10%成長・20%成長は当然で、さらに100%成長も可能性あるので、資金調達できたのであれば真面目にビジネスやった方が良いでしょう。
個人投資家からの出資
日本本社が無くベトナム法人のみで運営している場合、銀行からの融資は絶望的といって良いでしょう。不動産を持っているなど、特殊な場合を除き融資を得ることはできません。そこで最も早い解決手段は個人投資家(家族や友人なども含む)からの出資受入です。ベトナム法人の登記簿に出資者を追加する手続きは、公証化したパスポートと銀行残高証明書をベトナムに送るだけですので、ベトナム現地に来る必要もありません。(各種書類への本人サインは必要で、間違えた時送り直すのが面倒ですが)100万円から500万円程度の出資であればこの方法が確実で簡単です。ただし、大きな金額の個人出資は注意が必要です。事業ライセンスによっては外国人の出資比率が限られているので、出資と引き換えにライセンス取下げの可能性もあります。また、出資後の売買も同じような手続きで行うことができます。ただしこれも貸出金利と同じで売却益に対してもベトナム側で税金(外国契約者税)がかかるのでご注意ください。
日本企業との資本提携
現在多くの日本企業においてグローバル化は避けられない状況です。毎日のように日本からベトナムへ視察に来る日本企業の大半は、現地企業との資本業務提携を目的としています。その中でも近年のトレンドは、在ベトナム日系企業との資本業務提携です。在ベトナム日系企業は大きく2つのタイプに分けることができます。1つは日本に本社があり、子会社として存在している会社です。【ここでは”子会社日系企業”と呼びます】もう1つは日本人がベトナムを本拠地として起業した会社です。ただ、日本にも法人を持つこともあります。【ここでは”独立日系企業”と呼びます】子会社日系企業との資本提携は本社側との関係性に依存するため、複雑になります。そもそも本社間の資本関係が無い状態でベトナム子会社との資本提携をしても意味があるのかわかりません。
そこで独立日系企業が注目されます。なぜかというと、ドメスティックな日本企業の中には海外へ乗り込んで事業立ち上げをできるような人材が枯渇しているからです。20代の若手は留学経験もあり海外生活にすぐ馴染みますが、肝心な事業立ち上げの経験がありません。30代は十分な事業経験はありますが結婚していれば家族の同意を得る必要があり、またなによりも既存業務の引き剥がしが難しいのです。そこで、既に事業が立ち上がっていて、資本業務提携のしやすい独立日系企業が注目されています。事業が立ち上がってさえいれば、そこに大企業の資金力、信用力、技術力、管理能力等を掛け合わせることで、成長を何倍にも加速させることができるのです。
私の運営するエウスエイウェアハウスはベトナムおよび日本で立ち上げた独立日系企業ですが、2020年3月から福岡の「株式会社ペンシル」との資本業務提携を開始しています。この資本業務提携は、運営の安定化だけではなく、ベトナムにおける商品販売能力の強化を目的としています。これはその他の資金調達方法よりも得られる効果は大きく、今後多くの独立日系企業が資本業務提携を進めていくのは間違い無いでしょう。ちなみにバイアウトを提案されることもあるかもしれませんが、勢いを持って事業を成長させるためにはしばらくはオーナー社長として突っ走った方が良いと思います。数年後両社の息が合い、そして現地スタッフが社長ではなく企業にロイヤリティを持つようになってから、バイアウトを検討しても遅くありません。
(番外編)借りる前に副業バイトをする
資金が安定しない時にまずやるべきは、社長の副業バイトです。融資で調達したお金をただ食い潰しながら生きながらえる会社は「ゾンビ企業」と呼ばれ、借金は最大まで膨らんでいきます。そんなゾンビ企業になるわけにはいきません。私の場合、長くITコンサルをやっていましたので、本業の合間にこれまでお世話になってきた会社でコンサルとしてバイトをさせてもらいました。バイトと言っても実際は業務委託契約を締結させてもらい、会社に売上としてお金を入れていました。これで何度助けられたかわかりません。そしてバイトをすればするほど、本業で稼いで恩返しをしなくてはと思うようになりました。
さいごに
以上がベトナム資金調達の概観となります。まとめると、低金利の日本と、高成長のベトナム間のギャップを捉えることに尽きると言えます。ちなみに資金調達といえば株式上場がありますが、現在ハノイ・ホーチミン証券取引所に上場している日系企業は1社のみ、それも元々ベトナム内資企業ですので、資金調達手段としての上場を考える必要は無いと思います。