2018年頃から頻繁に聞くようになったキーワードがあります。それは「デジタルトランスフォーメーション(通称DX)」です。私は15年以上ITコンサルタントを生業にしていますが実は当初この言葉の意味を理解できていませんでした。当時、アクセンチュア在籍時代の先輩と飲み会をして、日本の大企業の重役向けにしているというDXの説明を聞き腹落ちして、以降理解が深まりました。
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DXを理解するための鍵はサブスクリプション
(元祖サブスクリプションの牛乳配達)
DXを早く・深く理解するためにもう1つ重要なキーワードがあります。それがサブスクリプションです。(日本語では定期購読)マイクロソフトやアドビはいち早く、OfficeやPhotoshopなどの有名ソフトをサブスクリプション化しました。顧客のソフトに対する利便性は一切変えず、顧客との関係性(契約形態)を変えました。サブスクリプション以前(つまりファミコンソフトのように買い切りした場合)購入から時間が経つと機器やOSが故障・保証切れとなりもう使う事ができません。私は昭和54年生まれですが、スーパーマリオに関しては、ファミコン、スーパーファミコン、ニンテンドー64、ニンテンドーDS、Wii、合計5回も購入してはゴミになっています。私はマイクロソフトOfficeを2018年からサブスクリプションしていますが、MacbookでもAndroidでもiPadでもバージョンすら気にすることなく快適に動いてくれています。新しいデバイスに変えてもソフトのライセンスをいちいち気にしなくて良いのです。
企業にとってのサブスクリプション化のメリットは、一度に大きな売上にならなくても継続して入金があり、さらに顧客との関係を継続できる点にあります。販売に際しては量販店や代理店を経由する必要も無く、インターネット上で直接顧客と関係を持つことができます。また、サブスクリプションは関連商品をオススメするアップセルにも向いており、既にクレジットカードの支払い登録が済んでいるため、クリック1つでアップセルを実現することができるのです。例えば私はAmazonのKindleを利用していますが、最近は耳で聞く本Audibleが出てきて気づかないうちに月1,500円のサブスクリプション契約に加入していました。初月は無料でいつでも解約できるので試しているところです。つまりアップセル営業に見事に引っかかっている状態です。
DXが現代企業の喫緊の課題となる
この事実を知った多くの企業は「我が社もサブスクリプションしたい!」と思うようになります。しかし、定期購読させるようなコンテンツが無いことに気付きます。それであれば新たに作るしかない、それがDXに繋がっていきます。20世期型の非インターネット産業を生業としていた会社が、これまでIT会社の領域であったメディア運営、Youtube配信、スマホアプリ開発、ネットショップ、ビッグデータなど「デジタルプラットフォーム上に作られたサービス(デジタルサービス)」に続々と参入しているのです。ブログでもYoutubeでも始めた当初はぎこちなく、あとで見ると消してしまいたいような黒歴史のようなコンテンツが世界中に公開されてしまっていますが、気にせず前に進み続ける勇気が必要となります。大企業ではDXが進まないと言われていますが、こまかなビジネスの決済まで上長の承認を取らなければならない企業では一度組織をぶっ壊さないとできないので(中間管理職にはDXが理解できない)外部から経験者を調達し、社長直轄のDX組織を作り試行錯誤をしてきました。
そんなタイミングで2020年にコロナが訪れました。アジア通貨危機やリーマンショックと同じ「大恐慌としてのコロナ」が訪れます。人々は消費と行動を制限します。それは前年のたった5%減かもしれませんが、減ることは間違いありません。倒産や解雇など、何か起きたときのための貯蓄をキープするためです。一方で行動量が減った分の暇を潰すためのインドア系娯楽も必要です。どのように消費を減らしつつ暇を潰すのか。それがデジタルサービスです。既に映画館はNetflixに、デパートはAmazonにリプレースされています。これまで外に出なければできなかったことが続々とデジタルサービスに置き換わっており、今ではVRでアパートの内覧をできてしまいます。(ナーブ株式会社https://www.nurve.jp/)DXに取り残された映画館やデパートや町の不動産仲介会社はもう生き残れません。
以上が2020年のDX概観でした。日本は20世期に経済発展を終えていたためDXが喫緊の課題となっていますが、いまだ経済発展中のベトナムはどのようにDXを迎えるのでしょうか。映画館、デパート、不動産仲介を例に現状をご紹介した後、DXの可能性を検証していきたいと思います。
ベトナムのレガシー産業状況
産業状況 – 映画館
映画館の収益は好調です。大手CGVシネマがピクサーやディズニーなどの独占放送権を持っており、2011年の参入以降急拡大しています。国内シェアは50%近くあります。私が初めてベトナムに来たときに衝撃的だったのは、カップルのデート場所が「橋」だったことであり、さらに驚いたのは「バイクの後ろに彼女を乗せて走る事自体がデート」という事実でした。その時代に登場した映画館は1上映250円ほどでしたので瞬く間に人気のデートスポットとなっていきました。現在では中高生も多く、これからの若い世代層に人気の娯楽となっています。
産業状況 – デパート
ベトナムデパート最大手のビングループの本業は不動産ディベロッパーですが、小売では赤字続きで事業売却を進めているようです。ベトナムのデパート事業が日本と大きく異なるのは、小売業者にスペースを賃貸する「テナント方式」が主流で、売上をシェアする「コンセ方式」がほぼ存在しないという点です。つまりデパートからすると家賃収入が入ればOK、店の売り上げには関与しないというやり方です。そうするとテナントが埋まった時点でデパートとしては一旦仕事完了、あとはテナント任せになってしまいます。その結果、オープン後徐々に遠のいた客足に対策をするわけではなく、週末の食料品買い出しや食事にのみ訪れる家族客だけのショッピングセンターとなってしまいます。デパートというより、専門店も併設したスーパーという感じです。そして次第に空きテナントだらけになりデパート側も赤字になってしまうのです。
産業状況 – 不動産仲介
まず日本と異なり、町の不動産屋という存在が稀です。営業所を持たない個人エージェントが多く、携帯電話とWebサイトのみで営業しています。私も個人エージェントを主に利用していて、アパートを引っ越したいなと思うと、馴染みのエージェント3人程に連絡します。直接メッセージをして、予算、間取り、地域を伝えます。すると1時間もしないうちに見繕ってもらった5軒ほどの写真が送られてきます。そこから気に入ったものを選んで内覧案内をしてもらいます。仲介手数料は無料(大家から支払われています)なので、納得のいくまで何度も提案をもらうことができます。個人エージェントは基本的に英語が堪能で何一つ困ることがなく、経費のかからないビジネスなので全員がWin-Winな商売だと言えます。
それでは、コロナ状況下でこれらのビジネスはどう変わっていくのでしょうか。DXの可能性はあるのでしょうか。
ベトナムの2020年DXを大胆予測
DX予測 – 映画館
コロナ以降映画館は完全閉鎖となっているため、Netflixにとってはベトナム事業拡大の大チャンスです。2016年にベトナム語字幕サービスを始めたNetflixですが、ベトナムは元々違法動画ダウンロードサイトが多く成長を阻んでいました。しかし映画館を知った今、Netflixの800円程度のサブスクリプション料金はカップルの映画館2回分以下の料金で、さらに見放題となります。これなら十分に購入できる余裕があります。ベトナムローカルのメディアからの動画サブスクリプションも期待できます。しかし、まだ平均年齢30才前半の若いベトナム人には外に出るための娯楽は必要です。映画館も引き続きカップルのデートの場として成長するはずなので、映画館とオンラインを組み合わせたサブスクリプションを出したら人気が出るのではないでしょうか。
DX予測 – デパート
デパートは生活必需品である食料品販売を除き閉鎖となっており、撤退が増える可能性があります。昔から参入している台湾系のパークソン、韓国系のロッテも今後はどうなるかわかりません。一方、Eコマースは順調に伸びています。これには明確な理由があり、ベトナム人は自宅から半径5キロ以内しか移動しないためです。5キロといえば東京駅から田町駅程度の距離です。電車が整備されていないため、近郊から都心部に出かけるという文化が無いのです。町田在住の方が丸の内に買い物に行くことはありえることですがこれは37キロを移動することになり、ベトナムではありえないことです。37キロ離れた場所にいる顧客にリーチするにはEコマースしかないわけです。オンラインモールは現在シェア獲得をかけた熾烈なプロモーション合戦を展開しており、各社数十億の累積赤字となっています。2020年4月時点ではシンガポール資本のShopeeが頭一つ抜けてきた感がありますが、このシェア争いに勝った暁にはサブスクリプション型サービスを打ち出すのではないかと考えています。洗剤やシャンプーなどの定期配送や、定額制の配送サービスは必ず出てくるはずです。
DX予測 – 不動産仲介
店舗を持たない個人エージェントはコロナのタイミングでも営業を続けていますが、元々便利なサービスなのでDXする要素が見当たりません。一方、賃貸ではなく不動産売買となると煩雑で法的リスクも多いため、ここにはDXの可能性があります。一例を挙げますと、ITエンジニアの友人がCTOとして参画したrealstake(https://realstake.net/)は不動産の共同購入サービスなのですが、振込を除きすべての手続きはアプリ内で完結するため、家に居ながら気軽に不動産投資ができます。さらにrealstakeは安価なマンションを共同購入することで数十万円程度の小額からの不動産投資を実現できます。不況だからこその不動産投資需要もあるようで、まさに今の時代のDXど真ん中のサービスではないでしょうか。ちなみにこのサービス日本人でも利用できます。また、realstake自身も資金調達中なのでベトナムでのDX投資をお考えの方は是非ご連絡ください。
今回は映画館、デパート、不動産仲介に絞って検証しましたが、DXの流れは全業種において確実に加速するため、これからのベトナム進出はデジタル前提で考える必要がありそうです。