株式会社エスエイウェアハウスは2021年2月、里薬品貿易株式会社に社名変更いたしました。

【2021年後期〜2022年前期】ベトナム化粧品販売市場予測

倒産する小売店

(写真:飲食・小売の営業停止命令により、ホーチミン市内中心部では閉店が相次ぐ)

ホーチミンのロックダウン状況(2021年8月)

ベトナム小売店の完全停止

ホーチミンでは5月31日から店内飲食禁止となり、7月9日からは首相命令16号発令(事実上のロックダウン)、生活必需品を除く全ての小売業の営業停止となりました。

7月26日からは18時以降の外出禁止も加わり、それでも感染者数・死亡者数共に増加傾向が続くため、8月23日からは「いかなる事情においても、外出を禁止する」という “スーパーロックダウン” となっています。ハノイやダナンも含む他の地域においても、タイミングこそ異なるものの同様の措置が取られており、全国的に厳しい状態が続いています。

弊社の主事業である化粧品の店頭販売も7月9日のロックダウン以降ストップしています。Eコマース販売は暫定的に営業できたものの、政府から配送会社に対し生活必需品以外の取扱を禁止する通達があり、以降「受注はできても、ロックダウン解除後にしか配送できない」という状況が続いています。

この状況下ではありますが、限られた情報の中で販売予測を立て、輸入量、ひいては生産の調整を行わなければなりません。事実として、現在のベトナム市況を数字に落としたものはほぼ存在せず、街の状況を自らの目で見て、顧客ターゲット層の友人からの話を総合して推測していくしか手立てがありません。

今回の投稿では、ロックダウンが明けるであろう2021年10月頃から年末にかけて、そして2022年旧正月商戦に何がどれぐらい売れるのか、私なりの予測を立てていきます。日本の化粧品メーカー、卸、小売、またはそこに関わるマーケティングや物流関係者の方のベトナム戦略の参考になれば幸いです。

コロナ下で美容業界は注目産業に

封鎖される街

(写真:ホーチミン1区の美容整形外科はワクチン接種会場に)

美容整形のダウンタイムをマスクで過ごせる

2020年4月にホーチミンでは第1波の影響で3週間のロックダウンを実施しています。この頃にはマスク着用とリモートワークが通常化し「美容整形のダウンタイム(術後の腫れや、傷が目立つ時期)」に同僚や友人に顔を見せなくて済むという点で、美容整形が一大ブームとなっていました。

人気は「プロテーゼ隆鼻術」と呼ばれる鼻の上部、目頭のあたりに詰め物をして鼻筋をスッキリとさせる整形手術です。ベトナム人女性、特に南部の愛らしい笑顔は少し低くて横に広がった団子っ鼻でありますが、これを北方系にシュッとさせることを好みます。もうひとつは大きな二重を「切開法」と呼ばれる手法で作る手術です。費用は鼻で1000USD(約11万円)目で600USD(6万6千円)程度です。

ベトナムはいまだに全国民の平均年収が30万円にも満たないと言われていますが、10万円を超える手術費用をポンっと出せてしまう人が大勢いるのも事実なのです。

美容整形とは異なりますが、歯科矯正やパーソナルトレーニングまでもがコロナ発生以降流行っていたのは街の様子を見ていても歴然としていました。私は暇があれば、バイクで市内を散策し、商業施設を訪れる生活をしているのですが、小売店と比べると、歯医者やトレーニングジムはいつも人が溢れていたのが印象的でした。

ホーチミン市内の美容整形外科は、日系では湘南美容外科の現地法人「SBCクリニック」製薬メーカーのロートが運営する「ロートアオハルクリニック」が出店しており、さらにその数十倍の韓国系クリニックと、またまた数百倍はあるであろうベトナムローカル系クリニックが存在します。技術の程は、ここでの深掘りは割愛しますが、そこそこ問題も起きているようです。

余談ではありますが、写真にもありますが、ヒアルロン酸やボトックス注射の施術が多い美容整形外科医が、コロナワクチン注射の担当になっている事が多く、コロナ重傷患者の対応で精一杯な外科・内科医に変わり、整形外科医がここでも活躍されています。

美容小売は正念場

ベトナム美容小売店

(写真:ベトナム全国に25店舗を展開する美容専門小売チェーンHASAKI)

美容整形外科と同じく2018年頃から業態として定着しつつある美容専門小売チェーンです。
シャネルやランコムの様なグローバルハイブランド大手化粧品メーカーであれば、ビンコムセンター等の高級ショッピングセンターにブランドショップを設置しますが、アッパーミドル、アッパーマスと呼ばれるような価格帯が若干低く、ブランド価値もそこそこ、でも良いもの、という化粧品は露出する場所が少ないというのが課題でした。

化粧品の購入に「美容専門小売チェーン」が人気

前述のビンコムセンターの下のクラスの売り場となると、いきなり地域密着型の薬局であったり、スーパーマーケットの化粧品コーナーまで格落ちしてしまうのでした。
そこに登場したのが、清潔感・高級感溢れる店構えに、多くのブランドを詰め込むセレクトショップ「美容専門小売チェーン」でした。
これがホーチミンの若者を中心に受け入れられ「何を買うかではなく、どこで買うか」という価値観を産み出したとも言えます。

新興国の若年女性というのは非常に「ピッキー」であります。ピッキーとは私の解釈ですが「他の物に目移りして、一つの所に留まっていられない」状態です。
Aという化粧品を使い切らずに、Bという化粧品を買ってします。さらにはAとBとCを買って、どれもたいして使わないまま、購買衝動を抑えられずにDを買ってしまうのです。そういった意味でも、1ブランドが販売されているショップより、セレクトショップが有効なのです。

私も定期的に美容専門小売チェーンに視察に行きますが、カップルも結構多いです。食事か買い物か映画館ぐらいしかデートする場所の無いベトナムにおいて、化粧品の買い物はエンターテイメントの一つなのでしょうか。一人当たり単価としては、“自腹で買うなら” 500,000VND(約2,500円)以内、彼氏が買うなら2,000,000VND(約10,000円)以内、といったところです。

しかしながら冒頭でも述べた通り、7月9日以降2ヶ月間閉店状態が続き、路面店の高い家賃が重荷となっています。写真のHASAKIはベトナム全国に25店舗を構えていますが、家賃は5000USD(約55万円)~10,000USD(約110万円)はかかるはずですので、この状況がこれ以上長く続くと縮小または廃業も考えなければならないかもしれません。

海外製品の輸入販売の厳格化

輸入品販売の厳格化

(写真:ベトナムにおける会議の様子 出典:自然資源環境省)

規制対象のハンドキャリー品が無くなり、正規輸入品で価格も正常化していく

2019年から各分野において、ベトナムに正規輸入されていない海外製品の販売が明確に禁止となりました。化粧品や健康食品においては、ベトナム国内で輸入販売許可を事前に取得する必要が以前からありましたが「ハンドキャリー品」と呼ばれる、旅行者が手荷物で持ち込んだ非正規輸入品の販売が横行していました。
特に直行便が多く運行していて、在住ベトナム人の多い日本からのハンドキャリー品が多く、資生堂などの高級化粧から、お年寄りの膝の痛みに効くコンドロイチンまで、多様な商品が稼ぐ手段としてベトナムにハンドキャリーで入ってきていたのです。

この状況にいよいよ政府のメスが入り、2021年からはオンラインショッピングモールにおいてオフィシャルショップを開設する際、輸入許可証、海外との売買契約書等、厳格な資料提出が求められるように変わりました。実質、メーカーと直接取引している業者しか、オフィシャルショップは開設できないはずです。さらにコロナで簡単に海外渡航ができませんので、これにより急速にハンドキャリー品がベトナム国内から無くなるものと思われます。

これまで、ベトナムにおける化粧品販売のボトルネックとされていたハンドキャリーがなくなることで、価格のコントロールができるようになり(弊社では日本価格の1.25倍をベトナム販売価格の基準としています)、またブランディング・マーケティングにも投資ができる状況が整ってきました。

ベトナムへの化粧品の正規輸入方法(jetro)特恵関税0%

ベトナムへの化粧品の正規輸入方法は下記のjetro様のサイトに詳しく記載されています。ただし、輸出入に慣れた方でないとこれだけ見てもよくわからないと思いますので、弊社にて噛み砕いてご説明も可能です。

特筆すべき事項としては、日本の商工会議所の発行する「原産地証明書」を輸出対象商品毎に取得すると、日本とベトナム間の特恵関税制度により、なんと最大22%の輸入関税は0%になります。ただし、付加価値税(ベトナム政府への税金)10%はかかります。

jetro様サイト

https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-030108.html

化粧品の中でも、これから何が売れるのか

ベトナムの化粧品店

(写真:ホーチミン市内の人気化粧品専門チェーンAB Beauty World)

ベトナム化粧品市場は “毛穴” と “紫外線” 関連が人気

ベトナムは四季のある北部と、一年中夏の南部で戦略に大きな違いがでます。今回こちらの章では南部を前提にして戦略を述べたいと思います。

私はホーチミンへ移住して10年が経ちました。同僚や友人など、そこまで意識して肌を見ていたわけではないのですが、一つ肌の特徴(弱点)を掴んでいます。それは “毛穴” です。これは人間であれば人種関係ないのですが、赤ちゃんとして生まれてから数週間〜数ヶ月の気候によって毛穴の密度が変わるそうなのです。

つまり、寒い地域、または寒い季節に生まれた人の毛穴は少なめで、暖かい地域、暖かい季節に生まれた人の毛穴は多めだということです。秋田美人などという言葉があるのも、北の方は寒い時期が多いから毛穴が少なく肌がスムースというのも一つの要因だと信じています。逆にベトナム南部出身者は例外なく夏生まれ、夏育ちですので、当然毛穴量も多くなります。

もう一つの要素としては成長過程での紫外線です。ベトナム南部は日本の夏と比べても紫外線量が4倍というデータを見たことがあります。これは同じ北半球の中でもオゾン層の状態に応じて紫外線量が変わることが理由だそうです。

私も調べながらが書いていますが、紫外線を浴びることにより肌の表面のコラーゲンが乾き(破壊すると表現されることもあります)毛穴が広がります。さらに、紫外線と肌が結合し「メラニン色素」を作り出すため、その毛穴自体も褐色付いてきます。

それでも代謝の活発な22歳までは、メラニンの排出により毛穴ダメージが顕著に現れません。しかし、23歳を越えてくると急激に影響が現れます。毛穴の開きと褐色化、いわゆる「くすみ」が出てくるのです。ベトナム人女性自身も “文化として” 23歳を越えると「Già rồi(私はもうおばさんよ)」とジョークを言うようになりますが、その科学的な理由をほとんどの人がわかっていません。周りが皆同じ状況なのでわかりませんよね。

ズバリ、ベトナムでこれから売れる化粧品ジャンル(リピート可能性あり)

この状況を鑑みると、本質的にニーズがあるのは

  1. 子供(大学生まで)向けのUV(紫外線)カット化粧品
  2. 大人向けのターンオーバー(メラニン色素排出)促進化粧品

であると考えています。1については、ベトナムおいて母親は自分より子供に投資をするという大前提があり、自分の洋服や化粧品よりも、子供の学校や英会話教室に積極的に投資します。肌のメカニズムと安いUVカット製品のリスクさえ理解すれば、子供にもある程度の金額のUVカットケアを施すはずなのです。しかも、ころころ使う商品を変えたりしないはずなので、3年〜5年とリピートする可能性もあるのです。

2については23歳から始めるスキンケアです。衰えてきたターンオーバーを促進するというものです。この世の中には、化粧水・乳液・美容液など無数の液体がありますが「ターンオーバー促進といえばどの化粧品か?」と聞かれてNo.1どころか1つも商品名をあげられない人が多数だと思います。そこのNo.1を取りに行くのが、デザインではなく “機能性” が得意な日本の化粧品・スキンケアだと考えています。少し調べた限りではありますが、富士フィルムや大塚製薬に基礎技術があるようなので、そのあたりに期待しています。

2021年〜2022年のベトナム化粧品市場のおすすめは、なんと言っても美白

とはいっても、今時点では「トラネキサム酸」を使った美白化粧品がベトナムでは大人気ですので、短期的にはそこを一点突破することで収益を上げることができるかもしれません。ただし、ライバルも多いので販売チャネル、価格、プロモーションを綿密に組んでいかなければなりません。これは戦略(戦わなくてすむ方法)というより戦術(どう闘って勝ち抜くか)の領域になります。

いつから、どれぐらい売れるのか

(写真:ホーチミン市内 イオン・タンフーセラドン店内の化粧品専門チェーンのイベント)

ベトナムのロックダウン明け、年末商戦の行方(ビンコム、イオン、高島屋)

ベトナム政府の決定次第となりますが、小売業の再開は早くて10月、遅くて12月というように私は踏んでいます。ホーチミンでの大手商業施設といえば、ビンコムセンター、イオン、そして高島屋ですが、この3つが営業開始するタイミングが本当のロックダウン明けと言っても良いのではないでしょうか。

ただし、こういった商業施設が再開しても2週間〜1ヶ月はベトナム人は様子を見る傾向があるので、本格的に売り上げが上がっていくのは再開1ヶ月後だと思います。(オンラインに関しても同様)このタイミングにいかにインパクトのある商品、価格、プロモーションを当て込めるかが年末〜旧正月商戦を勝ち抜くポイントとなります。

ベトナムに馴染みのない方には「年末〜旧正月商戦」は唐突な言葉でありますが、ベトナムにおける1年間の消費購買イベントは、9月の建国記念日、11月ブラックフライデー、12月クリスマス、1月(または2月)旧正月で、秋口から春にかけて山を迎えます。特に旧正月の消費が大きく、旧正月前の1ヶ月間で1年の7割の売上を稼いでしまう企業も存在するのです。

この季節性を鑑みると、2021年~2022年の化粧品販売は、

  • ブラックフライデー:低価格帯商品、在庫処分で様子見
  • クリスマス:男性向けに女性用プレゼントとして訴求
  • 旧正月前:お得意や年長者への贈り物として

このように売上を作っていくのが定石かと思われます。各イベントの売上比率でいうと、

  • ブラックフライデー:1割
  • クリスマス:3割
  • 旧正月前:6割

といった感じです。売上額は単価とプロモーション(特にオンライン)にもよりますが、例えばブラックフライデー前後1週間日で、1取扱店舗(実店舗・モール)での売上30万円を最低限達成したい所です。あとは取扱店舗数との掛け算ですので、10店舗であれば300万円、20店舗であれば600万円の売上となります。

こここまでできると、クリスマスは3倍、旧正月は6倍の規模が期待できますので、まずはブラックフライデーで結果を出すことが重要となります。特に今年はロックダウン後のブラックフライデーとなるので、正直読めない所だらけではあります。それでも、いきなり旧正月で博打を打つよりましです。

さいごに

確実に成長するベトナム美容・化粧品産業

「マクロは嘘をつかない」という言葉を昔も今もよく聞きますが、ベトナムにおいて人口が増加しているという事実と、コロナ下においても女性は美しくいたいというのは間違いないという状況で、化粧品販売市場は右肩上がりで成長していきます。

私は新興国のビジネスは「階段ではなくエスカレーターみたいなものだ」と言っています。それはつまり、はじめてさえしまえば、頑張って一段一段登らなくても勝手に登っていくものなのです。コロナで一瞬停止ボタンが押されてはいますが、このマクロの流れをひっくり返すほどのものではなく、人口動態に沿って世界は進んでいくと思われます。

今回は化粧品にフォーカスしてシミュレーションしてみましたが、まだまだ他の領域でも日本製品の可能性はあると感じています。本記事がベトナム販売を前向きに考えるきっかけになれば幸いです。

 

里薬品貿易株式会社

里吉 美仁